八戸、映画のロケ地を巡る旅

青森県八戸市は、多くの方がイメージする雪!りんご!ねぶた!といった津軽地方とは、趣きの違う景観や文化を有しています。八戸にはほとんど雪が降らない代わりに「やませ」という冷たく湿った風が吹き荒れ、冬の寒さは県内随一とも評されます。

そんな風土を求めてか、近年映画やドラマの舞台として登場することもしばしば。映画館もフィルムコミッション(ロケを誘致しサポートする非営利団体のこと)も無い土地ではなかなか珍しいことなんです。今回は八戸の見どころを、映画の世界に浸りながらご紹介していきます。

種差海岸 ~『マイ・ブロークン・マリコ』と生命力の玄関


公開|2022年
監督|タナダユキ
原作|平庫ワカ
出演|永野芽郁、奈緒、窪田正孝
公式サイト|https://happinet-phantom.com/mariko/


▲種差海岸
所在地|青森県八戸市鮫町棚久保

物語の重要なモチーフとなる「まりがおか岬」のロケ地が種差海岸です。監督はススキと海、両方がフレームに収まるロケ地を苦労して全国探し回ったそう。その貴重な景観を監督は「第3、4のキャスト」と評しました。


広大な空と岩場に打ち寄せる力強い波は大地の生命力を感じます。一方で、ススキの寂しげな風情はどこか死の気配を帯びているような気がしませんか?本作では親友の死をきっかけに、主人公が再び生きる希望を見出す過程が描かれます。その舞台として、生と死のモチーフが共存する種差海岸が選ばれたことは注目すべき事実ではないでしょうか。


▲前後200mは人影どころか歩道もありません


ちなみに主人公は、種差海岸遊覧バスうみねこ号の「中須賀」停留所付近
でひったくりに遭うのですが、友人一同「あんな歩行者がいない場所でひったくろうとする犯人、いくらなんでも辛抱強すぎるだろ!」とツッコミを入れたのも良い思い出。


▲思わず誰かが自由律俳句を詠んでしまうほどの絶景

是川縄文館 ~『ライアの祈り』に込められた祈り

公開|2015年
監督|黒川浩行

出演|鈴木杏樹、宇梶剛士

公式サイト|http://raianoinori.com/

▲是川縄文館

所在地|〒031-0023 青森県八戸市大字是川字横山1

開館日|月・祝を除く9時~17時※入館は16時半まで

休館日|月曜日(祝日・振替休日の場合は開館)、祝日・振替休日の翌日(土・日曜日、祝日の場合は開館)、年末年始(12/27~1/4)、その他臨時休館日

電話番号|0178-38-9511

次にご紹介するのは映画『ライアの祈り』のロケ地、是川縄文館です。宇梶剛士演じるクマゴロウは、ズバリ、是川縄文館の研究員として登場します。


キービジュアルにもなっている「合掌土偶」は国宝指定されており、大きな戦の起きなかった縄文時代の平和や豊穣の象徴とされています。東日本大震災から4年後に公開された本作。ベースは主人公2人のラブストーリーですが、その先にある平和への切実な祈りが見え隠れします。


▲今年度は4頭が活躍中!

館の周辺には3つの集落遺跡(一王寺遺跡、中居遺跡、堀田遺跡)が広がっており、自由に散策可能。さらに5月〜10月下旬にかけては除草のために放し飼いされているヤギに会うことができちゃうんです。映画に託された縄文の祈りに思いを馳せながら、ヤギたちとチルな時間を過ごしてみてください。

https://www.arpajon.co.jp/image/raianoinori/photo001.jpg©️ケーキハウスアルパジョンまた「朝の八甲田チーズケーキ」で有名な洋菓子店アルパジョンとのコラボスイーツが作られるなど、ご当地映画らしく地域をあげての精力的なキャンペーンも多数行われました。青森県に移住してくる前だったので、このBigWaveに乗れなかったのは今でも心残りです……。


八戸フェリー港 ~『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』の旅情


公開|2010年
監督・脚本|大森立嗣
音楽|大友良英
出演|松田翔太、高良健吾、安藤サクラ、柄本佑
予告編|https://www.youtube.com/watch?v=TTvYzjd7oew

八戸港フェリーターミナル
所在地|〒039-1161 青森県八戸市河原木海岸25
電話番号|0178-20-3085

最後にご紹介するのは、映画『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』のロケ地、八戸フェリー港です。この映画は、寄る辺ない若い3人組を描いた、痛く切ないロードムービー。まだデビュー間もない安藤サクラの熱演が見どころです。

お互いのことを「ブス」「バカ」とののしり合う主人公3人は、友情や愛情で結びついた関係ではありません。いうなればともに破滅への道を歩む、世界との共闘関係です。そんな彼らの旅路は、新幹線や飛行機のようにすぐ着いてしまう乗り物ではいけないと思うのです。人生について思い悩む充分な時間を提供してくれ、かつ意志とは関係なく移動させられてしまう、引き返せない装置がフェリーなのです。


▲以前旧ターミナルビルがあった場所は既に更地に

ロケ地である八戸港は青森港ターミナル、津軽海峡ターミナルと共に本州最北端に位置しています。本州から離れる=過去との断絶の表象、と解釈できるでしょう。



▲氷都をイメージした白壁の外壁は、青空に映えます

そして実は2024年2月、フェリーターミナルビルはリニューアルオープン!撮影当時の古めかしさから来る旅情は軽減してしまいましたが、その分「南部菱刺し」や「南部裂織」をモチーフにした粋な建築意匠を楽しむことができます。乗船予定がなくても、展望デッキ立入は可能ですので、ふらりと訪れて潮風を楽しむのもいいかもしれませんね!


▲八戸工業大学学生が手掛けた木工ベンチも

八戸に興味を持っていただけたでしょうか?3箇所とも比較的知名度の高いスポットですが、大手メディアでは取り上げられないオルタナティブな一面をご紹介してみました。東北新幹線やフェリー港を使えばアクセス抜群の八戸市!ぜひ遊びに来てくださいね。

文:上平美紀

“inter-mission(インターミッション)”代表。映画館が潰れてしまった八戸市にて、映画文化衰退を食い止めるべく活動を行っている。上映会後援事業“白マドの灯”ではスタートアップ・運営中核に携わる。